MEDLINE収録の日本発行雑誌をハンドサーチしよう
JANCOC代表
東京医歯大難研・情報医学(臨床薬理学)
津谷喜一郎
[The Informed Prescriber (TIP) 1996; 11(9): 48-9より。
その後のハンドサーチの発展により、ハンドサーチ
されている雑誌
の数や関連するWebsiteなどが変わっていますのでご注意下さい。]
コクラン共同計画のシステマティックレビューは、図1のようなステップをとるが1)、まずは、無作為化比較試験
(randomized controlled trial: RCT)を見つけることから始まる。
世界に存在するすべてのRCTは、図2のように段階的に区分けできる。第1に、そのRCTが既に終了したもの(completed)か、
現在進行中のもの(ongoing)かである。第2に、それが発表されたもの(published)か、発表されなかったもの(unpublished)かである。
第3に、発表されているならば、雑誌(journal)にか、抄録や学位論文などの他の形態でかである。第4に、その雑誌がMEDLINE収録か、
未収録かである。第5に、MEDLINE収録雑誌中の論文がRCTと同定されているかいないかである。
米国国立医学図書館(National Library of Medicine: NLM)には、約23,000種の雑誌が受け入れられ、このうち約3,700の雑誌が
MEDLINE収録となっている。この数は、毎年少しずつ変動するが、毎年NLMから発行される“List of journals indexed in Indexed Medicus”
2)の国別リストを見ると、日本発行のものは、1996年度で119種である。このリストは、たいていの医学図書館においてある。
ただ、厳密に言うと、MEDLINE収録の歯学と看護学関係の雑誌はこのリストには載っておらず、直接MEDLINEを検索して探すこととなる。
1994年については歯学と看護学の領域も含み、他の漢字文化圏の雑誌も含めて、もとの文字の漢字などに直したリスト3)
が発表されている。この124種のうち、日本語による雑誌は、約半分の66種類である。
コクラン共同計画に関わって、海外の関係者から始終聞かれるのは、日本にどのようなRCTがあるのかをどうやって知ったらよいか
ということである。日本の医学雑誌は全部で約2,300種あり、網羅主義をとるJMEDICINEに収録されている。JMEDICINEは、JICST
ファイルと医中誌ファイルとからなり、このうち、JICSTファイルについては、その英語版がJICST-Eとして海外からもアクセス可能である。
また、JAPIC-DOCには医薬品を中心とした約200誌が収録される。日本語データベースのJMEDICINEもJAPIC-DOCも、原則的には
海外からもアクセス可能ではあるが、ほとんど海外からの利用がないのが現状である。日本語という言語のバリアーと共に、論文の
質評価のためのシソーラスの整備が不十分なことも理由の一つである4)。
システマティックレビューにあたっては、「特異度」(specificity)よりも「感度」(sensitivity)がより重要である。感度が高いとは、見逃しが
少ないということである。とりあえず広い網ですくって、RCTを同定し、つぎのステップの個々の論文の質評価に進むのである。
しかし、MEDLINE中のMeSH(Medical Subject Headings)のRCTとしてのindexingや、1992年から新設されたフィールドであるPublication Type
(PT)も、それほど完全なものではない。これまでの各領域のシステマティックレビューからは、MEDLINEサーチでは表1に示すように
平均して約77%のみがRCTと同定されている。またMEDLINE非収録雑誌を含む広範囲のハンドサーチを分母とする約50%に低下する
5)。
そこで、現在世界に10あるコクランセンターの1つ、米国のボルティモアセンターは、MEDLINE収録雑誌を中心としたRCTを同定する
プロジェクトを、NLMと提携して1993年12月から開始した。ボルティモアのセンターに登録され、ハンドサーチされた雑誌中の論文の、
MeSHや、Publication TypeをNLMが付け加えたり付け替えたりするのである。
NLMは以下のように言明している6)
もし人々が、MEDLINEに収録される雑誌中の論文で、RCTであると権威を持って同定できるならば、NLMはそれにしたがってタグ付け
を行うであろう。さらに、MEDLINEに収録されない雑誌で重要な臨床試験があるならば、それらを別のデータベースに収録し検索できる
ようにするであろう。MEDLINEは利用者にそのデータベースの存在に注意を向けるであろう。
この言明中の、「権威をもって」(authoritatively)という箇所が、コクラン共同計画のなかで行われるハンドサーチということになるのである。
ここで、日本人として1つの提案をしたい。コクラン共同計画の最終目的から言うと、日本にあるすべてのRCTを見つけることが理想的
であろう。しかし、現実的なものとして、日本人としては、まず、MEDLINE収録雑誌中のRCTを見つけたらどうであろうか。自分の専門
分野あるいは自分の母校の紀要などから選んで開始したらどうだろう。異なる職種や学生などと複数の人がチームを組んでも良い。
これを上記のボルティモアセンターのプロジェクトと結び付けるのである。
日本からのMEDLINE収録雑誌は表2のように区分けできる。例えば、私の母校の“Bulletin of Tokyo Medical and Dental University”
を調べることとする。この雑誌は、1980年からMEDLINEに収録されている。この時点から始めてもよいし、この雑誌の発刊された
1954年の第1巻から始めてもよい。また、とりあえず5年分として1990年から1995年までを見ても良い。そして1号ずつ、RCTの論文が
あるかどうか見ていくのである。この作業では、本TIP誌にも報告したよう7)に、近年、無作為割付け(random allocation)
の質に重要性が置かれるようになってきており、コイン投げやカルテ番号の奇数偶数などによる割付けは、Controlled Clinical Trial
(CCT)ないしはQuestionable RCT(Q-RCT)として区別している。こうした作業をコクラン共同計画では、「ハンドサーチ」と称している。
ただ、後に続く人が同じ雑誌のハンドサーチをすると無駄になるので、もし、ある雑誌についてやってみようと思ったら、ボルティモアセンター
に連絡して登録するとよい。センター(fax: +1-410-328-0110, e-mail: cochrane@umabnet.ab.umb.edu)へ、とりあえず雑誌名を連絡すると、
登録のための簡単な用紙を送ってくるのでそれに書き込んで送り返せばよい。現在、約600種の雑誌のハンドサーチが進行中で、どの
雑誌のサーチがなされているかは、WWWで知ることができる
(http://hiru.mcmaster.ca/cochrane/default.htm)。詳しいdownloadの方法は、
NIFTYServeのFDRUGの電子会議室19「コクラン共同計画」のログを見ていただくと1996年8月15日付けで載っている。
このWWWのMaster Listによると1996年7月現在で、日本発行の雑誌は、日本語の雑誌4種、英語の雑誌1種のハンドサーチが進行中である。
各人のハンドサーチの作業にバラツキがあってもまずいため、具体的な作業方法については、“Cochrane Handbook”の第5章を
見られると良い。先のWWWからdownloadすることができる。より詳しい“Hand Search Training Manual”も冊子として発行されている。
入手に困難を来す方は、日本をカバーするオーストラリアにあるAustralasian Cochrane Center
(fax: +61-8-276-3305, e-mail: cochrane@flinders.edu.au)へ連絡するか、JANCOC(fax: 03-5280-8071)へ連絡されてもよい。JANCOCでは
実費でコピーし送付する。
ハンドサーチが終わったならばその結果はボルティモアセンターへ送ることになる。できたところから何回かに分けて送っても良い。
それをもとに、毎年11月にMEDLINEの各論文のMeSHとPublication Typeが修正などされるとのことである。
残念ながら、ハンドサーチした人の名前がMEDLINE上に現れることはないが、表1のように、ある雑誌中のRCT収録等に関する論文
が少なくとも1つは書けることになるのが、その作業に対する報酬ということになろう。さらに、自分の行ったハンドサーチの結果を
世界中の人々が利用できるという、“人知れず”の満足感を得ることもできよう。もちろん、自分のハンドサーチの結果を中心として
各自で、あるいはそれぞれのテーマ毎の共同レビューグループ(Collaborative Review Group: CRG)に参加して、つぎのステップの
研究を行ってもよい。
英文のマニュアルというのは、見るだけで気分が萎えるものである。そこで、具体的なハンドサーチの方法について、具体的な例も
交えて、1996年12月1日(日)午後に東京医科歯科大学でワークショップを開く予定である。申し込み問い合わせは先と同じく
サイエンティスト社である。多数の参加者を期待している。
謝辞:本稿作成に協力頂いた、ボルティモア・コクランセンターのKay Dickersin、英国コクランセンターのCarol Lefevreの両氏に謝意を
表する。
参考文献
1)別府宏圀:コクランセンターのこと TIP 正しい治療と薬の情報 9(2): 11-13, 1994.
2)List of Journals indexed in Index Medicus, NIH Publication No. 96-267. National Library of Medicine, Bethesda, 1996.
3)津谷喜一郎,他:漢字文化圏のMEDLINE収録雑誌リスト 日本東洋医学雑誌 45(3): 643-653, 1995.
4)Tsutani K, Sakuma A: How to access RCTs in Japan through network access from abroad. Program of 2nd Cochrane Colloquium. Hamilton, Canada, 1-4 October 1994, p. 34
5)Dickersin K, Scherer R, Lefebvre C: Identifying relevant studies for systematic reviews. BMJ 1994; 309: 1286-91.
6)Colaianni LA: An evidence-based health care system: The care for clinical trial registries (Discussion). National Institute of Health,
Office of Medical Applications of Research, Bethesda, 6-7 December 1995, p.152.
7)津谷喜一郎:無作為化比較試験のコンセプトの普及とその実施の必要性. TIP 正しい治療と薬の情報 9(11): 101-2, 1994.
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