日本にRCTはいくつあるか?

津谷喜一郎*1  山崎茂明*2  兼岩健二*3  中山健夫*4

[臨床薬理 1999; 30(1): 189-90]


目的:コクラン共同計画は、そのプロジェクトの一環として「ランダム化比較試験」(randomized controlled trial: RCT)や 比較臨床試験(controlled clinical trial: CCT)からなるデータベース“CENTRAL”を作成している(このうちRCTやCCTが確定したものは “CCTR”と称している)。CENTRALはThe Cochrane Library CD-ROMに収載され、その1998 issue 4には、すでに約22万件が入力され、 evidence-based medicine (EBM)で広く用いられている。このうち約15万件がMedline由来である。しかし日本からは約2,000件と少ない。 この状況を鑑み、平成10年度文部省研究成果公開促進費による 「日本の無作為比較試験データベース」(J-RCT-DB)がスタートした。 全世界でRCTの数は50万とも100万とも言われるが、いったい日本でこれまでに何件のRCTが実施されたのであろうか?

方法:日本の3つの医学データベースを用い、RCTに関係する、(1)random allocationや(2)blindingの領域のキーワードを用い、 simple searchとcomprehensive searchの2通りの検索を1998年11月に行った。この結果とデータベースのカバーする時期などから概数を 推定した。

結果:
Tab.1  Simple search Tab.2 Comprehensive seacgh
Tab.3 まとめ

考察と結論:
(1)日本でのRCTは、1951年に実施されたChalmersらによるものから始まる。その後、1967年の厚生省による「医薬品の製造等に関する 基本方針」後、行政的要請に応ずるために、1970年代以後医薬品を中心に多くなったと考えられる。

(2)JMEDICINEは1981年以降、JAPIC-DOCは1983年以後をカバーし、ここからある程度全数を外挿できる。

(3)JMEDICINEとJAPIC-DOCのカバーする期間の、2年の違いを考慮すると、JMEDICINEの方が、より多くのRCTを含むと考えられる。 ただし、single blinding関係は、JAPIC-DOCの方が強い。

(4)日本語デ−タベースは、カタカナ検索の方が、ヒット率は高い。特に、JAPIC-DOCでは、約42% (1-2,363/4,053)の違いが見られる。

(5)randomization関連の検索によるヒット数が少ない。日本では、“科学的薬効評価方法”の代名詞として“二重盲検法”が用語として 広まったが、その基盤にrandomizationがあることの認識が、各方面で低い。このため論文作成時にrandomization関連の用語を 用いることが少ないこと、データベース作成者も関連の用語をもちいず、thesaurusのtree構造が未発達、また医薬品以外のRCTは、 RCTのコンセプトの理解が進まなかったため少ない、ことなどが関係すると思われる。

(6)JICST-Eの含むRCT数は、simple searchで722と少ないが、CENTRAL収載にあたっては、英語化の必要がないことから、このJICST-Eから 始めるべきである。

(7)CENTRALは、特異度(specificity)よりむしろ感度(sensitivity)に重点をおいた、つまり漏れの少ないことを目指して作られたものであり、 さらに厳密なRCT/CCTの質評価を行う、各title毎のsystematic reviewへ情報を提供する、ある意味で玉石混淆のdirty databaseである。 日本語データベースを世界的な資産として用いるには、同じく感度に重点をおいたelectronic search、さらにhand searchを行い、英語化の プロセスを通してCENTRALへ組み込むべきである。

(8)MEDLINEのPublication typeに相当するfieldが未発達な日本のデータベースでは、RCTを「用いた」臨床試験論文も、RCTに「ついて」の 論文も含まれるが、方法論に対する関心はそう多くないため、後者は少ないと予想される。

(9)国際医学情報センター(IMIC)作成のCTIは、抗生剤を除いた「治験」のデータベースで、1983年以後で約8,000件含まれる。

(10)以上を総合し、日本のRCTの総数は約10,000件と推定された。

*1 東京医科歯科大学難治疾患研究所情報医学研究部門(臨床薬理学) 〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台2-3-10
*2 愛知淑徳大学文学部図書情報学科
*3 順天堂大学医学図書館
*4 東京医科歯科大学難治疾患研究所社会医学研究部門(疫学)



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