病院図書室研究会 創立25周年記念総会・2000年度第1回研修会:講演

コクラン共同計画の文献収集活動
―コクランライブラリのデータベースはどのように作成されるのか―

JANCOC  廣瀬美智代

[ほすぴたるらいぶらりあん 2000; 25(2): 97-103]


T.はじめに


 コクランライブラリThe Cochrane Libraryは、収載しているデータベースがEvidence-based Medicineを実践する上で有用であると 評判の製品である。これは年4回発行される、コクラン共同計画The Cochrane Collaborationのアウトカムである。

 本稿では、コクランライブラリに触れ、信頼性が高いとして利用されているコクランライブラリの収載するデータベースがどのように 作成されているのか、紹介する。


図1 ランダム化比較試験の実施方法 U.ランダム化比較試験RCTとは


 まず、ランダム化比較試験について簡単に説明する。

 「ランダム化比較試験(randomized controlled trial、以下RCT)」とは、被験者をランダム割付けを用いて医学的介入(薬、外科手術、 検査、看護、教育、サービスなど)を行う群と比較対照群に分け、評価を行う臨床試験である(図1)。医学的介入が最も適正に評価される 臨床試験の方法である。「ランダム化」または「ランダム割付け」は従来「無作為割付け」とよばれていたものである1)。 なお、「ランダム抽出」とは異なるものである。

 「ランダム割付け」とは被験者を試験のそれぞれの群に割付ける際に、乱数表やコンピュータ発生させたランダムな順序を用いる。 被験者を作為なく複数群に分けた、というだけでは「ランダム割付け」とは言えない。生年月日、曜日、カルテ番号、被験者が研究に 組み込まれた順番などは「準ランダム割付け」(quasi-randomization)であり、これを用いたものはCCTすなわちcontrolled clinical trial として別に定義される。このような定義によって、MEDLINEやコクランライブラリではCCTをRCTに準じてエビデンスの高い臨床試験と して扱っている。ただし、controlled clinical trial(比較臨床試験)という言葉は単に、臨床的に行われる対照群の存在する試験の意味に 用いられる場合や、歴史的変遷からRCTの意味に用いられる場合があるので、注意が必要である。


V.コクランライブラリThe Cochrane Library


 コクランライブラリは、コクラン共同計画(The Cochrane Collaboration)が作成し、Update Software社が製作・販売している製品であり、 年4回発行されている。現在、同社のCD-ROM版及びインターネット版のほか、Aries社のKnowledge finder、Ovid社のEBM Reviewsなど 各社から提供されている。価格や利用上の条件等は提供各社により異なっている。詳細は提供各社あるいは国内代理店にお問い合わ せいただきたい。

 この製品は、治療や予防といったヘルスケア上の介入の有効性に関するデータベースとして、その内容の質・量において他のデータ ベースより優れており、この領域の検索に最適のもののひとつである。

 コクランライブラリに含まれる、内容と利用者とエビデンスの研究デザインの一覧表を示す。(表1
表1 業務上の疑問とその解決に最適のエビデンスの研究デザインとコクランライブラリ収載
の有無

 1.収載しているデータベース

 データベースのうちEBMのための使用頻度の高いのは、CDSR(システマティックレビューのデータベース)と、CENTRAL/CCTR(RCTと CCTのデータベース)である。また、2000年より新たにEED(NHS Economic evaluation database、経済評価に関するデータベース)が 収載されるようになった。このEEDと従来から収載されているDARE(有効性に関するレビューのデータベース)はNHSレビュー普及センター 2)が作成しているものである。

 以下は、Update Software社の製品を例に紹介する。

 コクランライブラリ(図2)は、上のIndex windowに各データベース名とその所有データ数が表示される(表2)。△をダブルクリックすると 詳細が表示される。下のDocument windowには選択された文献が表示される。中頃の3つのボタンで各Windowの表示サイズが変更できる。 また[Find]ボタンにより文献内の語句検索が可能となる。

図2 コクランライブラリ(The Cochrane Library 2000 issue1)other sources of informationに新たなデータベース
が収載 表2 コクランライブラリ収載のデータベース

 2.検索する

 コクランライブラリは[Simple search]と[Advanced search]の二種類の検索方法がある。

 [Simple search]は、一般的な語句やAND等の簡単な検索式を使った検索ができる。また[New](新規掲載)が[Updated](改訂)の限定も 可能である。

 [Advanced search]は、キーワードのリスト、MeSHを利用した検索、出版年・タイトル・著者等を限定した複雑な検索、複数の検索式の 論理式を使った検索が可能である。

 一般英語・医学英語・MeSH(Medical Subject Heading)が使用でき、医学英語・MeSHは[Advanced search]の[Display Word list]を使うと アルファベット順にリストされる。[Search]から[MeSH]にして検索する語句を入力し[Thesaurus]で表示される。画面下の[Explode in all tree]を 選び[Search]ボタンで検索される。ただし、MeSHは、MEDLINE経由で収載されたレコード以外にはつけられていない。

 コクランライブラリの検索機能は、収載しているデータベース全ての文字情報が検索対象となる。また、AND、OR、NOT、トランケーションには 「*」を用いて検索式作成が可能であり、2語以上の熟語の検索では“ ”またはNEXTを使用する。NEARで結んだ熟語ではお互いが6語以内に あるデータを検索することができる。

 3.システマティックレビューの結果を読む

 検索の結果は、赤い数字で各データベースのうちヒットした件数が表示される。CDSR(コクラン共同計画が行ったシステマティック・レビューの データベース)の中にヒットしたものがあるなら、ダブルクリックして本文全文を表示させてみよう。このシステマティック・レビューはコクラン レビューと呼ばれ、長文であり、上から順に読むのはたいへんだが、[outline]を押す(図3)と本文の小項目が出てくるので、読む項目を 選べばよい。

 まず、抄録部分を読んでみる。抄録部分は構造化されているので、簡潔に内容を知ることができる。

 次に、結果の図を見てみよう。[Summary of analysis]を選んで[MetaView: Tables and Figures]でオッズ化の図表(図4)が表示される。 左側にアウトカムが表示され、オッズ比と95%信頼区間が図示されている。解析に用いられた研究は、[Characteristics of the studies]から、 [Table: Characteristics of included studies]で詳細がメニュー形式で表示される。

図3 コクランレビューをアウトラインで読む 図4 コクランレビューの結果をMetaViewで見る
 出力して読む方が読みやすいかも知れない。なお、本文の出力指定をしても[MetaView: Tables and Figures]と[Tables of characteristics]は 印刷されないので、画面表示上で、別途、印刷指定が必要である。

 コクランレビューは結果から得られたことについて中立に述べる姿勢をとる。臨床ガイドライン等とはこの点が大きく異なっている。ユーザーは 文章と図表のどちらか一方のみではなく両方を必ず見て判断する姿勢が求められる。

 4.他のデータベースを見る

 検索結果のうち、CDSR以外のデータベースでヒットした文献を見る。CENTRAL/CCTRにはRCTやCCTが、DAREやEEDでは有効性や経済性に ついての文献を知ることができる。

 5.アブストラクトの公開

 CDSRのコクランレビューのアブストラクト部分はインターネット上で無料で公開されている。コクランライブラリの製品が手元になくても、 是非、参考にしていただきたい。
http://www.nihs.go.jp/acc/cochrane/revabstr/mainindex.htm


W.コクラン共同計画とは


 コクラン共同計画の名は、英国の疫学者アーチー・コクラン(Archiebold Cochrane, 1909-1988)にちなんでいる。医師コクランは、すでに 行われたランダム化比較試験の結果を見返して伝えることが専門家の努めであるとした。

図5 UKコクランセンター(英国オックスフォード)  ヘルスケアの介入の有効性に関するシステマティックレビューを「つくり」、「手入れし」、「アクセス性を高める」ことによって、人々が ヘルスケアの情報を知り判断することに役立つことを目指す国際プロジェクトであり、いわば、NPO(非営利団体)である3)

 英国で1992年にUKコクランセンターが設立されたのを初めに、現在15か所にコクランセンターが設立されている。コクラン共同計画の 中心的作業であるシステマティックレビューは、コクラン共同レビューグループ(以下、CRG)という国境を越えた人的交流によってボランタリに 遂行されており、これに関連する作業や運営委員会も同様である。事務局は英国にあるが、UKコクランセンター(図5)はNHSの研究機関の ひとつとして英国内の作業に集中しており2)、今やコクラン共同計画の中心的存在というわけではない。各地のコクランセンター 自体は、CRGなどやハンドサーチのコーディネーションや研修機能を担っているが、必ずしも研究機関ではないので、スタッフの人数は驚くほど 少ない。

 日本には現在、コクランセンターはないが、日本人のネットワークであるJANCOCがある。


X.コクラン共同計画における文献収集活動


 「エビデンス」を求めるひとやレビューをするひとがRCTを探し出す負担を軽減することができるように、RCTは国際登録されている。

 この活動を行っているのが、コクラン共同計画である。コクラン共同計画は、英語文献に限らず、また、国際的に、エレクトロニック・サーチと ハンドサーチをはじめ、様々な方法でRCTをもれなく収集できるよう活動を行っている。こうして検出したRCT/CCTをコクランライブラリの CENTRALに収載している。

 1.エレクトロニック・サーチ

 コクラン共同計画はNational Library of Medicine(以下NLM)と共同して、RCTとCCTの定義を定めたが、この定義に従って、コクラン 共同計画ではMEDLINE収載のレコードからRCTの可能性があるとして電子的に選出されたレコードの書誌情報を担当者が個々に検討し、 RCTあるいはCCTと判定したものをコクランライブラリのCENTRAL/CCTRに収載している。単に電子的に検索を行った結果ではなく、こうした 一連の作業を、エレクトロニック・サーチと呼んでいる。

 また、EMBASEは欧州発行誌を多く収載し、医学薬学領域の情報に強いといわれている商業データベースであるが、EMBASEとも同様の 共同作業を行っている。

 日本のデータベースについては、こうしたコクラン共同計画との共同作業は可能性の検討段階であるが、実現すれば、この領域における 国際的貢献のひとつとなるであろう。

 2.ハンドサーチ

 ハンドサーチとは、コクラン共同計画は「RCTの論文をもれなく確認するために、雑誌を1ページ1ページ(例えば、人による手作業で)計画的に 検索すること」と定義している。通常行われているような、電子的に検索された文献から手作業で求める文献をより分けたり、めぼしい雑誌から 文献を選び出すこととは全く異なるものである。

 コクラン共同計画ではこの作業のためにハンドサーチマニュアルを用意し、ハンドサーチが行われている雑誌のマスターリストの管理を 行っている。現在、ボランタリに雑誌毎に登録されたハンドサーチ担当者によってハンドサーチされ、検出されたRCT/CCTは、コクランライブラリ のCENTRAL/CCTRに収載されるとともに、MEDLINEやEMBASEにフィードバックされ、バックメンテナンスされている。

 EUでは、BIOMEDプロジェクトとして医学研究を行っているが、その一研究としてEU内のRCT/CCTを検出する作業が行われた。1994年から 3年間でハンドサーチしたヘルスケア一般誌は120誌延べ2,740年分にのばる。これによって、21,720件のRCT/CCTが新たに検出され、そのうち 17,230件はMEDLINEで認識されていない論文であった。EU各国のコーディネーションは各地のコクランセンターが中心になって行われた。 このプロジェクトには出版社や雑誌編集者の協力に加え、図書館からも協力を得ている。

 1998年から3年間、BIOMED2プロジェクトが、医学や欧州市民の健康、産業に役立ち、かつ、研究成果が診療に役立つよう計画され、 第6分野公衆衛生研究が欧州連合条約129条に基づいて実施されているが、ここでも、ハンドサーチによるRCT/CCTの検出が行われており、 ヘルスケア専門誌を対象にしている3)

 こうした地道な作業がEBM実践のためにRCTを求めるひとや、システマティックレビューを行うひとのRCT検出に要する時間を大幅に軽減し、 また、より網羅的な情報の収集を援助することになるのである。

 日本でも、日本においてハンドサーチする人のためのハンドサーチマニュアル4)が作成され、一部で演習が行われている。

 3.パブリケーション・バイアスを減らすために

 こうしたRCTを検出する努力によって、すでに発表された臨床試験はハンドサーチで、データベースに収載された臨床試験論文は エレクトロニックサーチで、タイムラグがあろうとも検出されるだろう。しかし、発表されなかった臨床試験はどうなるだろうか。論文投稿されても 掲載されない臨床試験、実施されたが論文投稿されない臨床試験、開始されたが中止された臨床試験はどうなるのだろうか。また、これらの 臨床試験は実施者にとって何らかの好ましくない事情が原因の場合もあると思われる。

 これらの埋もれている臨床試験を救い出すために、META(Medical Editors Trials Amnesty)5)という活動が行われており、 この情報がコクランライブラリに掲載されている。すなわち、医学雑誌の編集者が臨床試験を実施する研究者に対して、公表されていない 臨床試験の登録を依頼する。これによって、非公表の臨床試験を情報として公的に利用可能とする、というものである。

 また、企業が実施する臨床試験を登録することもまだ一部の動きではあるが、行われており、これもコクランライブラリのCENTRALに 収載されている。


Y.日本のRCTはどうなのか


 日本のRCTは1万件と推定されている6)。しかし、日本発行の医学系雑誌のうちMEDLINEやEMBASEに収載されている雑誌は 300誌にみたず(JANCOC調べ)、いわゆる欧米で作成されるデータベースの検索のみでは、日本で実施された臨床試験の論文の多くは 検出されてこない。筆者の調べ(1999年2月時点)ではJMEDICINEに収載されているものは1995年から1998年の4年分でも1,200件に及ぶ。

 こうした中で、日本の医学系雑誌からRCTの情報をCENTRAL/CCTRに収載しようと作業も行われている7)

 臨床試験は、経済的資源を消費するものであるが、何より、被験者の善意に支えられたものである。同じ課題に対して過剰に臨床試験が 行われる必要はないし、従来の治療法の選択を変えうるような課題に対しては、臨床試験を実施する者はすでに行われている臨床試験の 結果を十分検討して行うべきである。臨床試験の結果や進行状況の情報は入手しやすく誰でも知ることができるようなシステムが望ましいと 思われる。医療や福祉に関する情報は、医師や医療関係者などばかりでなく、医療や福祉を受ける側の選択の問題でもあるのである。

 2000年に入って、個人が手軽に日本医学論文のデータベースを検索できるサービスが登場し、データベースのシソーラスも改良された。 インターネットをめぐる環境も変わり、EBMの実践方法も様変わりしそうな気配がある。海外の情報をどのように日本で用いるか、常に議論 のあるところである。しかし、日本の情報は世界にとって不要なのか。筆者は、国内の情報流通の充実とともに、日本からの情報の発信 あるいは国際的な貢献を積極的に行うべきであると考える。


Z.最後に


 Evidence-based Medicineと限らずとも、臨床論文をさがすのは、時間と手間のかかるものである。論文を探す目的によって、捜し方も 異なってくる。日常の診療でEBMを実践するためには、迅速に見つけ出す必要があろう。研究のためには、ありとあらゆるRCTを求めること になる。

 コクラン共同計画が様々に活動してこのように作成したコクランライブラリは、RCTあるいはシステマティックレビューの検索において、 迅速性と網羅性ともに優れた製品である。

 アドバイスをいただいたJANCOC代表津谷喜一郎氏に感謝します。

 本稿は、日本病院図書室研究会2000年度第1回研修会(2000年5月12日川崎市)における講演「コクランライブラリとコクラン共同計画の 文献収集活動」の一部である。

参 考 文 献
1)厚生省医薬安全局審査管理課長通知:「臨床試験の統計的原則」について.1998.11.30.;医薬審第1047号.
2)廣瀬美智代、津谷喜一郎.英国のNHSレビュー普及センターとコクランセンターの現状.病院.1999;58(10):951-4.
3)廣瀬美智代.コクランライブラリとハンドサーチ.ほすぴたる らいぶらりあん.1999;24(3):214-24.
4)JANCOC.日本でハンドサーチを行うひとのためのハンドサーチマニュアル.in:平成10年度厚生科学研究事業・EBMを支える リサーチライブラリアン養成に関する調査研究報告書.1999.
5)柳本敏彦、Ian Roberts、津谷喜一郎.METAとは何か−未公表臨床試験を探す「アムネスティ」の試み.臨床評価.2000;27(3):503-8.
6)津谷喜一郎、山崎茂明、兼岩健二、中山健夫.日本にRCTはいくつあるか?臨床薬理.1999;30(1):189-90.
7)津谷喜一郎、廣瀬美智代、栗原千絵子他.日本のRCT論文をThe Cochrane Library/CENTRALに収載するには.医学図書館. 2000;47(1):68-76.

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