〈抄録〉第22回 日本臨床薬理学会年会 2001年12月14〜15日 横浜

日本では毎月約70編のRCTが報告されている

津谷喜一郎*1金子 善博*2中山 健夫*3
宇山久美子*4宮野 昌明*5山崎 茂明*6
兼岩 健二*7細谷 敬子*8根本  恵*9
八重ゆかり*10平田 智子*10平田 直紀*10
磯野  威*10栗原千絵子*10廣瀬美智代*10
大淵 直子*4山口直比古*10松島  堯*10

*1 東京大学大学院薬学系研究科医薬経済学
  〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
*2 北里研究所臨床薬理研究所, *3 京都大学大学院医学系研究科医療システム情報学分野, *4 財団法人国際医学情報センター, *5 医学中央雑誌刊行会, *6 愛知淑徳大学文学部図書館情報学科, *7順天堂大学医学部図書館, *8 東京慈恵会医科大学図書館, *9図書館情報大学大学院情報メディア研究科, *10JHES
[臨床薬理 2002; 33(2): 273S-4S より了承を得てup]


目的:EBMの推進がもとめられるにともない, エビデンスの強いランダム化比較試験 (randomized controlled trial: RCT) が注目されつつ ある. 日本で報告されたRCTは, 1998年以前では約1万件と推測されている1). しかし, 既存の医学データベースでは, それらは十分 に検索されず, システマティックレビュー, 臨床ガイドラインの作成, 臨床上の意志決定などに有効に活用されていない. 日本で行われたRCTの情報 へのアクセス性を高める必要がある.

 H12年度厚生科学研究「日本の既存医学データベースをEBM に生かすためのエレクトロニックサーチ・ハンドサーチの方法論の開発とデータ ベース改良に関する研究」(Japan Handsearch and Electronic Search project: JHES) が開始された. その目的は, 1) ランダム化比較試験 (RCT) のデータベースの作成, 2) electronic search手法の開発と, 3) 既存医学データベースの改善である. 本プロジェクトのシステム開発と実施に ついて解説し, 明らかになった日本のRCT報告の概要を紹介する. その詳細については別途報告した2).

方法:プロジェクト開発・実施の記述による.

結果と考察:
 JHESの成果は, 手法, データベースを含めweb上で公開されている (http://jhes.umin.ac.jp).

(1) SDIサービスによるハンドサーチと品質管理

 ハンドサーチとは, コクラン共同計画で開発された, RCTを医学関連雑誌から漏れなく収集するための手法である. 特定の雑誌を対象として 経時的に, 手作業で雑誌の全ページをめくり, 原著論文, 抄録, 総説, 演題, ニュースなど文献タイプにとらわれず RCT 文献を選択する.

 本プロジェクトのハンドサーチは, (財) 国際医学情報センター(IMIC)のSDI (Selective Dissemination of Information) サービスを利用し, 日本で 発行されている最新の医学関連雑誌年間1,238誌(週刊, 月刊, 季刊, 年刊などを含む)を対象とし, prospectiveに行った. SDIサービスとは , 利用者の希望に沿った文献を, IMIC受入れの国内医学雑誌, 学会会議録・プログラム, 各種研究報告書からスクリーニングし, その結果を届ける ものである. プロジェクトの実施に先立ち, IMICの担当スタッフに対して半日のハンドサーチの研修を行った. ハンドサーチは毎日平均10人が担当 している.

 RCTの判定は, コクラン共同計画のハンドサーチの基準に準じた. また, ハンドサーチの品質管理は, ハンドサーチ・プロセス・モニタリングシートを 開発し, IMIC内のコーディネーターとJHESの専門家による2段階のチェックによりおこなった. 専門家は, 判定困難な事例に対して, 判定とコメントを つけフィードバックを行い, ハンドサーチの質を向上させた. ここで明らかにされた問題とその対応法については「ハンドサーチによるRCT/CCT採択 の要点」としてまとめwebに収載し作業を効率化させた.

 これらのやりとりのために事務局をコントローラー委員会に設けた.

(2) データベース設計と入力

 採択されたRCT報告の全ページをコピーし, アーカイブを作成した. 医学中央雑誌 (医中誌) 刊行会 (Japan Medical Abstracts Society: JAMAS) によりデータベースの構造設計と, 採択されたRCT情報の入力がなされ, 順次web上で公開された.

 ハンドサーチの結果は, さらに英文化されThe Cochrane Library/CENTRALにも収載され, その情報は世界的に利用可能となる予定である. すでにretrospectiveなハンドサーチについては「臨床評価」誌をモデルとして収載までのプロセスが確立され, RCTが英文で収載されている3).

(3) 2000年8月- 2001年3月の採択数

 H12年度の対象期間は, 2000年7月の試行期間に引き続き, 2000年8月- 2001年3月の8ヶ月であった.

 ハンドサーチの結果をTable 1に示す. のべ4,315誌, 月平均540誌のハンドサーチが行われた. SDIサービスによる1次判定で553件の文献が 採択された. 判定困難とされた107文献について2次判定が行われ, 39件が採択された. 合計で592件, 月平均74件のRCTが採択された.

Table 1  ハンドサーチの対象雑誌数と採択RCT件数

 採択された全RCTについて, 2次判定を行う専門家による見直しを行ったが, 明らかな誤分類はなかった.

(4) RCTの情報源とパブリケーション・バイアス

 ハンドサーチで採択された文献タイプには, 原著, ショートコミュニケーション, 学会プロシーディング, 学会抄録, 学会演題, 総説, 特集や連載 , 座談会などがあった.

 学会抄録による報告は, 後日, 同一の臨床試験が原著論文として, 抄録と重複してこのデータベースに収載される可能性がある. 抄録を含めて ハンドサーチを継続し, 網羅的にRCTの報告を収集することで, この相互関係が明らかになろう.

 また, パブリケーション・バイアスを避けるためにも, 進行中のRCTの登録システム4)とuniqueなID numberをつけることが必要で ある.

(5) RCTデータベースの利用法

 本プロジェクトで集積されたRCTは, randomizationを基本として感度(sensitivity)に重きをおいて得られたものである. 報告の質はなお問題がある 2).このデータベースによるRCTの利用にあたっては, 利用者, つまりシステマティックレビューの作成者やその他の意志決定者が , 個々の目的に応じて批判的吟味を行い, また著者への問合わせをするなどすべきであろう.

結論: 本プロジェクトにより, エビデンスの強いRCTの報告を集積・公開するシステムが開発された. prospectiveなハンドサーチにより, 日本 ではRCTが毎月約70件, 年間約1,000件, 報告されていることが明らかになった. 本プロジェクトは「研究」として現在も進行中である. 今後, 定常的な 財政的基礎と組織により, 本システムが継続的に運営され, エビデンスが適切に「つたえ」られることが望まれる.

参考文献:1) 津谷喜一郎, 他. 日本にRCTはいくつあるか?.臨床薬理 1999; 30(1): 189-90.
2) 金子善博, 他. 2000年に日本で報告されたRCTの内容. 臨床薬理 2002; 33(2): 323S-324S.
3) 津谷喜一郎, 他. 日本のRCT論文をThe Cochrane Library/CENTRALに収載するには. 医学図書館 2000; 47(1): 68-76.
4) 金子善博, 他. ランダム化比較試験の登録に関するロンドン会議報告. 臨床評価 2000; 27(3): 491-501.

JHESホームページへ戻るハンドサーチ関連日本語文献へ戻る