日本では毎月約70編のRCTが報告されている
津谷喜一郎*1 | 金子 善博*2 | 中山 健夫*3 |
宇山久美子*4 | 宮野 昌明*5 | 山崎 茂明*6 |
兼岩 健二*7 | 細谷 敬子*8 | 根本 恵*9 |
八重ゆかり*10 | 平田 智子*10 | 平田 直紀*10 |
磯野 威*10 | 栗原千絵子*10 | 廣瀬美智代*10 |
大淵 直子*4 | 山口直比古*10 | 松島 堯*10 |
*1 東京大学大学院薬学系研究科医薬経済学
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
*2 北里研究所臨床薬理研究所, *3 京都大学大学院医学系研究科医療システム情報学分野,
*4 財団法人国際医学情報センター, *5 医学中央雑誌刊行会,
*6 愛知淑徳大学文学部図書館情報学科, *7順天堂大学医学部図書館,
*8 東京慈恵会医科大学図書館, *9図書館情報大学大学院情報メディア研究科, *10JHES
[臨床薬理 2002; 33(2): 273S-4S より了承を得てup]
目的:EBMの推進がもとめられるにともない, エビデンスの強いランダム化比較試験 (randomized controlled trial: RCT) が注目されつつ
ある. 日本で報告されたRCTは, 1998年以前では約1万件と推測されている1). しかし, 既存の医学データベースでは, それらは十分
に検索されず, システマティックレビュー, 臨床ガイドラインの作成, 臨床上の意志決定などに有効に活用されていない. 日本で行われたRCTの情報
へのアクセス性を高める必要がある.
H12年度厚生科学研究「日本の既存医学データベースをEBM に生かすためのエレクトロニックサーチ・ハンドサーチの方法論の開発とデータ
ベース改良に関する研究」(Japan Handsearch and Electronic Search project: JHES) が開始された. その目的は, 1) ランダム化比較試験
(RCT) のデータベースの作成, 2) electronic search手法の開発と, 3) 既存医学データベースの改善である. 本プロジェクトのシステム開発と実施に
ついて解説し, 明らかになった日本のRCT報告の概要を紹介する. その詳細については別途報告した2).
方法:プロジェクト開発・実施の記述による.
結果と考察:
JHESの成果は, 手法, データベースを含めweb上で公開されている (http://jhes.umin.ac.jp).
(1) SDIサービスによるハンドサーチと品質管理
ハンドサーチとは, コクラン共同計画で開発された, RCTを医学関連雑誌から漏れなく収集するための手法である. 特定の雑誌を対象として
経時的に, 手作業で雑誌の全ページをめくり, 原著論文, 抄録, 総説, 演題, ニュースなど文献タイプにとらわれず RCT 文献を選択する.
本プロジェクトのハンドサーチは, (財) 国際医学情報センター(IMIC)のSDI (Selective Dissemination of Information) サービスを利用し, 日本で
発行されている最新の医学関連雑誌年間1,238誌(週刊, 月刊, 季刊, 年刊などを含む)を対象とし, prospectiveに行った. SDIサービスとは
, 利用者の希望に沿った文献を, IMIC受入れの国内医学雑誌, 学会会議録・プログラム, 各種研究報告書からスクリーニングし, その結果を届ける
ものである. プロジェクトの実施に先立ち, IMICの担当スタッフに対して半日のハンドサーチの研修を行った. ハンドサーチは毎日平均10人が担当
している.
RCTの判定は, コクラン共同計画のハンドサーチの基準に準じた. また, ハンドサーチの品質管理は, ハンドサーチ・プロセス・モニタリングシートを
開発し, IMIC内のコーディネーターとJHESの専門家による2段階のチェックによりおこなった. 専門家は, 判定困難な事例に対して, 判定とコメントを
つけフィードバックを行い, ハンドサーチの質を向上させた. ここで明らかにされた問題とその対応法については「ハンドサーチによるRCT/CCT採択
の要点」としてまとめwebに収載し作業を効率化させた.
これらのやりとりのために事務局をコントローラー委員会に設けた.
(2) データベース設計と入力
採択されたRCT報告の全ページをコピーし, アーカイブを作成した. 医学中央雑誌 (医中誌) 刊行会 (Japan Medical Abstracts Society: JAMAS)
によりデータベースの構造設計と, 採択されたRCT情報の入力がなされ, 順次web上で公開された.
ハンドサーチの結果は, さらに英文化されThe Cochrane Library/CENTRALにも収載され, その情報は世界的に利用可能となる予定である.
すでにretrospectiveなハンドサーチについては「臨床評価」誌をモデルとして収載までのプロセスが確立され, RCTが英文で収載されている3).
(3) 2000年8月- 2001年3月の採択数
H12年度の対象期間は, 2000年7月の試行期間に引き続き, 2000年8月- 2001年3月の8ヶ月であった.
ハンドサーチの結果をTable 1に示す. のべ4,315誌, 月平均540誌のハンドサーチが行われた. SDIサービスによる1次判定で553件の文献が
採択された. 判定困難とされた107文献について2次判定が行われ, 39件が採択された. 合計で592件, 月平均74件のRCTが採択された.
採択された全RCTについて, 2次判定を行う専門家による見直しを行ったが, 明らかな誤分類はなかった.
(4) RCTの情報源とパブリケーション・バイアス
ハンドサーチで採択された文献タイプには, 原著, ショートコミュニケーション, 学会プロシーディング, 学会抄録, 学会演題, 総説, 特集や連載
, 座談会などがあった.
学会抄録による報告は, 後日, 同一の臨床試験が原著論文として, 抄録と重複してこのデータベースに収載される可能性がある. 抄録を含めて
ハンドサーチを継続し, 網羅的にRCTの報告を収集することで, この相互関係が明らかになろう.
また, パブリケーション・バイアスを避けるためにも, 進行中のRCTの登録システム4)とuniqueなID numberをつけることが必要で
ある.
(5) RCTデータベースの利用法
本プロジェクトで集積されたRCTは, randomizationを基本として感度(sensitivity)に重きをおいて得られたものである. 報告の質はなお問題がある
2).このデータベースによるRCTの利用にあたっては, 利用者, つまりシステマティックレビューの作成者やその他の意志決定者が
, 個々の目的に応じて批判的吟味を行い, また著者への問合わせをするなどすべきであろう.
結論: 本プロジェクトにより, エビデンスの強いRCTの報告を集積・公開するシステムが開発された. prospectiveなハンドサーチにより, 日本
ではRCTが毎月約70件, 年間約1,000件, 報告されていることが明らかになった. 本プロジェクトは「研究」として現在も進行中である. 今後, 定常的な
財政的基礎と組織により, 本システムが継続的に運営され, エビデンスが適切に「つたえ」られることが望まれる.
参考文献:1) 津谷喜一郎, 他. 日本にRCTはいくつあるか?.臨床薬理 1999; 30(1): 189-90.
2) 金子善博, 他. 2000年に日本で報告されたRCTの内容. 臨床薬理 2002; 33(2): 323S-324S.
3) 津谷喜一郎, 他. 日本のRCT論文をThe Cochrane Library/CENTRALに収載するには. 医学図書館 2000; 47(1): 68-76.
4) 金子善博, 他. ランダム化比較試験の登録に関するロンドン会議報告. 臨床評価 2000; 27(3): 491-501.
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